高齢聴覚障害者が望む施設を考える

介護が必要になった高齢ろう者が、安心して利用できる施設を考える学習会に参加しました。

埼玉県入間郡毛呂山町に2006年4月に開所した特別養護老人ホーム ななふく苑の速水千穂施設長のお話を聞きました。

社会福祉法人埼玉聴覚障害者福祉会が運営するななふく苑は、特別養護老人ホーム、デイサービス、
グループホームなど、様々な聴覚障害者向けの施設です。
聴覚障害者向けの老人ホーム(特養だけでなくサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなども含めて)は、全国で13施設あるそうですが、視覚障害者向けは約80施設と比べるととても少ないです。
東京都にはないため、ななふく苑を利用する聴覚障害者64名のうち29名が東京都出身。埼玉県出身者と同数だそうです。(2023年4月30日現在)

聴覚障害者向けの施設が少ない背景は、外見から障害があることがわかりづらく、整備が遅れたのではないかと速水さんは説明しました。

ななふく苑の基本理念

「利用者が主人公」を基本理念とし、「七つの幸せのあるくらし」をめざします。

①安心できるくらし
②安楽なくらし
③温かいコミュニケーションのあるくらし
④情報が保障されたくらし
⑤心通い合う利用者とのくらし
⑥選べるくらし
⑦手厚い援助のあるくらし
特に、聴覚障害者にとって③④なくして安心な暮らしはできないと。

ろう高齢者の人としての尊厳を守る介護とは?
・顔と顔を合わせて、手話等でコミュニケーション
・次の行動に移る時は、ご本人に説明、ご本人の了解・選択・納得の上で!
・受診の時は手話通訳、ご本人が理解しやすいよう説明、治療法の選択
・そのためにはコミュニケーション・情報保障が大前提

聴者に比べて聴覚障害者の介護度が低いのはなぜか

ななふく苑に入所者のうち 聴者の平均介護度は5.00、聴覚障害者は4.39

・手話のできるケアマネジャー、ヘルパーがいない
・手話で語り合えるデイサービスがない
自宅で暮らし続けたくても、地域でろう者が納得して使える介護サービスがないから、早期に在宅生活の限界が来るので、施設介護を選択する時期も早まるのだと。

高齢聴覚障害者の介護の実践、調査から、「すべての支援の30%が、情報・コミュニケーション支援」に充てられる実態が明らかになり、障害者生活支援体制加算の充実につながったという成果も。

ななふく苑の職員は、全員が初めから手話が堪能なわけではなく、定期的な研修や仕事を通じて見て覚えたり、自主的に学んだりしながら手話を習得していくのだそうです。

学習会を主催した練馬区聴覚障害者協会の方とお話ししたところ、「やはり、老後のことが心配」「両親がろう者だったが、地方で手話が通じる施設に入所できた。東京にはないことを知り、遅れていると思った」などの意見を聞きました。
施設のワンフロアを聴覚障害の方専用にしている川崎市の特養の事例なども知ることができました。都内や区内で、聴覚障害の方が高齢になっても安心して暮らせるしくみを考えていきたいと思います。