食べものから世界を学ぶ ~人も自然も壊さない経済とは?~
気候危機、新型コロナウイルスパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻は私たちの暮らしに大きな影響を与えました。光熱費や食料品の高騰が家計を圧迫し、暮らしと世界がつながっていることにあらためて気づいた人も多かったのではないかと思います。
何が問題で、どう考えればよいのか。
食と資本主義の歴史、植物油を中心とした食の政治経済を研究している、京都橘大学経済学部准教授の平賀緑さんを講師に迎え「食べものから世界を学ぶ~人も自然も壊さない経済とは?~」をテーマに学習会を開催しました。
食も農も経済システムに組み込まれている
ロシアとウクライナの開戦直後から小麦の価格が高騰
世界規模で多くの人があっという間に「価格高騰で食べられない」貧困、飢餓に陥り、社会不安の脅威が高まる状況を招いています。
ロシアとウクライナの2か国で世界の小麦輸出量の約3割を生産していて、戦争によって海上輸出が寸断され供給不足から価格が高騰した、と捉えがちです(間違っているわけではない)。
ちょうど、学習会の前日、ウクライナからの穀物輸出が再開したと報道されました。「やれやれ、これで価格も安定し、問題解決か」と考えたいところです。
しかし、米国のたった一つの商品取引市場(シカゴ相場)における価格変動が、世界の「主食」の価格を瞬時的に動かすシステムこそが問題だと平賀さんは指摘します。
そもそも、世界の穀物の生産量も在庫量も大きな変動がないのに価格が変動する、生産量と価格は連動していない現状は今に始まったわけではなく、経済学者や一部のビジネスマンには常識なのかもしれません。「食べもの」が投機、マネーゲームの対象になっている現状が私たちの暮らしに影響を与えていることにあらためて気づかされました。
「食」と資本主義経済の歴史
農村での自給自足的な生活
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産業革命 都市部の労働者の食が「商品」に
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大量生産+大量消費
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グローバリゼーション
市場を求めて世界展開、多国籍企業、経済の金融化
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気候危機、パンデミック、戦争
常に成長(利潤追求)のために「搾取」するフロンティアを求めて拡張してきた
主要食料の輸出国も、農薬種子企業、穀物商社、加工企業、小売業も少数の大手が寡占状態
コスト削減、利潤最大化の経済至上主義で世界に展開されたグローバル・サプライチェーンは、線状で一か所でも寸断されると止まってしまう。これがパンデミックや戦争でモノが滞る現状を招いている
誰のための経済成長なのか?
工業的な食と農が気候危機に加担⇛温室効果ガス排出量の4分の1は「食料の生産・消費のシステム」から
経済成長をGDP(国内総生産)で計ると
食品を過剰に生産し、過剰に消費すれば GDPアップ! 肥満につながる?
不健康になって医者に掛かれば GDPアップ!
ダイエットや健康食品に頼れば GDPアップ!
大量生産のための遺伝子組み換えやゲノム編集などの技術開発、農薬使用で GDPアップ!
自分で生産して食べる循環では、お金が動かないので「経済成長していない」ことになる。
人や地球が不健康になればなるほど「経済成長」しているように見えるシステムに衝撃を受けました。
地域に根ざした食と農と経済を
世界人口を養っているのは、大規模・近代的・工業的な農業(30%)ではなく、小さな農業(小規模生産者や家庭菜園、都市菜園など)による食料ネットワーク(70%)であるという推計があるそうです。
旬の農産物のおすそ分けや、木の実や魚介類の採取など、人と人、人と自然のつながりで食を賄ってきた経緯があります。
GDPで計ると大きな経済成長ではないけれど、地域で生産された旬のものを食べる暮らしを選択することは、都市部に暮らす私たちにもできることではないかと考えました。
さらには、考えたり実践(調理など)するためには、時間的な余裕も必要になるので、暮らし方、働き方も含めた生き方やそれが可能になる社会の実現が求められているのだと思います。
食べることは生きること。
私たちの体をつくる「食べもの」のほとんどは、市場経済に組み込まれた「利益を出す」ための「商品」であり、自給自足をしない限り、容易に現状の食料システムから外れることは困難です。だからこそ、食卓の向こう側を知り、「健康も環境も損なわない」暮らし方に努めることが必要だと考えます。
質疑では、オリンピック・パラリンピックアスリートの食材の基準「ギャップ認証制度」や困窮者支援における課題、「なぜ油を研究しているのか」など、多岐にわたる質問に端的な回答や意見を示していただき、非常に有意義な学びの場になりました。
平賀みどりさんの著書「食べものから学ぶ世界史」を読むことをお勧めします。