婦人保護施設いずみ寮を見学

売春防止法が制定された2年後の1958年に、区内に設立された婦人保護施設「いずみ寮」を訪問し、施設長の横田千代子さんと支援員の方々からお話を伺いました。

婦人保護施設とは

家庭環境の破綻や生活の困窮など、様々な事情により社会生活を営むうえで困難な問題を抱えている女性たちが、共に暮らす中で再び自立に向けて生活構築が出来るように支援をしている施設です。

根拠法は、売春防止法に置かれ、その目的に「売春を行うおそれのある女子を収容保護、更生」する施設ということで、周囲からの偏見や隔たりを感じる歴史があったとのことです。

利用者の背景は設立当初と変わっていない

横田さんが2010年に作成した、設立当初から数年間の利用者に関する記録によると、
社会的背景に貧困があり、個人が抱える障害疾病が重ねあわさっていること、
女性たちは社会の被害者であり、支援が必要であるという状況は、
60年以上経過した現在の利用者の状況とほとんど変わっていないということがわかりました。

家族・親族など近親者からの暴力(性暴力)、虐待(性虐待)、過干渉や監視などからの逃避のために、ネットカフェや知人宅を転々とする間に、さらに性暴力などのトラブルに巻き込まれるケースは少なくありません。

「自尊感情を奪われることは、重ねて被害を受けやすい状況を生み出してゆきます」と横田さんは指摘しました。

人から侵害されたものは人によって回復する

成長する過程で長い間、暴力や暴言に晒されてくる中で
・勉強ができない環境
・成長に応じて身につけるべき社会生活の基礎を学んでいない
・「人を信頼する」関係が育てられていない
・人との関係、人との距離がわからない
・人としての尊厳をふみにじられてきた

このように、社会(人)から侵害された尊厳、心身への被害からの回復のためには適切な治療と「育て(ち)直す」環境が必要であり、それは「被害を受けた者の権利である」と横田さんは強調します。

「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援法)」施行へ

66年続いた売春防止法の「保護更生」に替わる「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援法)」が、今年の5月に成立しました。

目的には
「女性が日常生活又は社会生活を営むに当たり、女性であることにより様々な困難な問題に直面することが多いことに鑑み」、「困難な問題を抱える女性の福祉の増進を図るため」、「困難な問題を抱える女性への支援のための施策を推進し」、「人権が尊重され、女性が安心して、かつ自立して暮らせる社会の実現に寄与する」ことが明記されています。
⁂「困難な問題を抱える女性」とは、性的な被害家庭の状況地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活または社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性

施行期日は2024年4月1日
「自立支援」の視点がなかった、売春防止法第3章【補導処分】・第4章【更生保護】が削除され、婦人保護施設から女性自立支援施設へと名称を変更し、名実ともに「女性の人権の尊重に基づく支援」をおこなう施設となります。

日中活動のひとつである菜園「COCOガーデン」には立派なスイカやかわいいキュウリなどが実っていて、利用者の方が誇らしげに説明してくれました。

60年以上にわたり地域に根差して運営してきたいずみ寮では、喫茶室や生産品の販売、バザーなど地域に開かれた活動が盛んでしたが、新型コロナウイルス感染防止のために休止状態です。感染症が収束し、なるべく早く再開されることを願ってやみません。

女性支援法の施行によって、人件費や運営費などの予算措置で適切な支援が充実することを期待します。また、自治体において、実効性のある支援がすすむよう尽力します。