いのちを育む仕事の賃金はなぜ低い?ジェンダー平等の視点で考える

介護職や保育士の賃金水準が全産業平均を大幅に下回っていることは広く知られています。

介護や保育は圧倒的に女性が多く働く仕事。
いのちを育む仕事が軽んじられているのではないか、それはなぜなのか。
5月14日、労働法制に詳しく、女性差別撤廃条約実現アクション 共同代表である早稲田大学名誉教授の浅倉むつ子さんを講師に迎え、ジェンダー平等の視点で学びました。

コロナ禍において、看護師、保健師、保育士、介護職の人々は「エッセンシャル・ワーカー」と注目され、持ち上げられました。しかし、過酷な勤務実態に見合った待遇を受けているとはいえません。
政府は閣議決定により2022年2月から、介護や保育労働者の収入を引き上げる措置を実施しましたが、「月額9000円」では改善とは言い難いのではないでしょうか。

ジェンダー不平等社会日本

日本のジェンダー・ギャップ指数156か国中 2021年120位!2006年は80位だった
ちなみにフランスは、2006年70位 ⇒ 2021年16位へ(政党に候補者を男女半々とするよう義務づけた「パリテ法」施行の影響大)

日本では経済分野の男女格差が特に大きい
男女賃金格差の3大要員
1.勤続年数の差異⇒平均勤続年数 男性:13.4年 女性:9.3年
2.職階の差異⇒役職者に占める女性割合 部長級8.5%
3.正規・非正規の格差⇒非正規雇用労働者割合 男性:22.2% 女性:54.4%

なぜ、1~3のような格差が生じるのかが問題

日本の特色は根強い性別役割分担 夫婦の家事・育児時間の偏り 男性1:5.5女性
企業社会において「会社に100%捧げられる労働者が正社員にふさわしい」という考え方が根強い
「ケアレス・マン(家庭責任不在の男性)」「男性稼ぎ主モデル」「妻付き男性モデル」など、研究者の表現があります。(「ケアレス・マン」は造語)

コロナ禍によって浮き彫りになった女性の困難

1.雇用と就労をめぐって
雇用者の減少。2020年平均で男性14万人、女性17万人減少(女性の減少幅大)。
休業者の増大⇒休業手当がなくなると収入減。2020年平均で男性35万人、女性45万人増。
2.DVと性暴力、自殺者数
DV相談件数は前年の1.6倍に。
自殺者数(2020年) 男性:23人減少 女性:935人増加。
3.家庭内でのケア労働の増大。特に子育て女性に負担が集中。
「家事・育児に困った(一斉休校など)」「睡眠時間減少で健康被害」感じると回答
⇒子どものいる男性:15% 子どものいる女性:36%
4.エッセンシャルワーカーの困難
ケアワーカーの人員不足と長時間労働。感染リスクに侵されながら働かざるを得ない実態。
看護師の92%、訪問介護職員の78.6%、施設介護職員の70.1%は女性(2021内閣府)

なぜ「ケア労働」は低賃金なのか?

これまでの賃金差別をめぐる民事訴訟では、性差別の立証が極めて難しい。さらに、裁判所は女性の労働の価値を客観的に評価せず「専門性」「困難性」を否定する判断をしている(と言わざるを得ない)。
このような経緯から
ケア労働=主に女性が担ってきた労働に対して価値評価をしない(むしろマイナス評価)、職務分析もしない
ことを是正できない、しなくても良い=低賃金でも良い、という社会になっているのではないか。

低賃金の原因は賃金構造、制度の問題も

保育士:2000年から始まった「委託費の弾力的運用」。株式会社が運営する私立保育園では、委託費の30%しか人件費にあてていない実態がある。
営利企業による保育所 2013年 488か所 ⇒ 2017年 1686か所

介護労働者:介護報酬を引き上げないとヘルパーの賃金は上がらない。
労働基準法を守れない働き方⇒訪問介護の移動時間や待機時間、業務報告書の作成時間は介護報酬の対象にならないことが多い。

改善策のひとつが女性差別撤廃条約の「選択議定書」の批准

選択議定書は、女性差別撤廃条約の実効性を強化するための付属文書

女性差別撤廃条約 日本は1985年に批准
批准のための国内法整備⇒男女雇用機会均等法制定、国籍法改正(男女の区別なく外国人と日本人の間に生まれた子は日本国籍を取得できる)、家庭科男女共修の学習要領の改訂などが実現

選択議定書は未だ批准せず

条約を批准しながら選択議定書を批准しないのは「法律は作るが守らない」というに等しい‼

選択議定書を批准している国の人々ができること
権利侵害された個人または集団は、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)に通報して救済を申し立てる。
受理されると、条約違反があったか検討し、差別があった場合は国に対してCEDAWが「見解・勧告」を出す。国は回答書を出さなければならない。

男女賃金差別や非正規賃金差別、夫婦別姓訴訟など、個人通報制度を待っている人々が何人もいます。

選択議定書を批准すると日本はどうなる?

前述したように、日本の裁判所は女性差別撤廃条約を判決の基準にしていません。選択議定書を批准し、個人通報制度が使えるようになると、国際基準が尊重され、裁判所が女性差別撤廃条約を裁判に適用するようになります。

ケアに満ちた民主主義社会に

コロナ禍のなかで(今まで無視されてきた)ケア労働および担い手の重要性が明らかになりました。
生まれる時と最期には誰でもケアが必要。子どもの世話や家族の介護は、人々の命と生活を支える本質的な仕事です。
「ケア労働をもっと評価せよ」だけではなく、
生まれてから命を失うまでの間でケア労働はいかに大事なものか
ケア労働は「人間は生きるに値する尊厳を持った存在である」ということを教えてくれている
私たちはあらためて学ぶべきだと思いました。

学習会の中で紹介された「ケアに満ちた民主主義こそが本来の民主主義の姿というべき」というジョアン・トロント氏の著作「ケアするのは誰か?新しい民主主義のかたちへ」を読んでみたいと思います。