泉南市子どもの権利条例と学校教育 ~夏の視察報告~

8月5日、子どもの権利条例を制定し市政や教育現場に取り入れている大阪府泉南市の取り組みを視察しました。(遅ればせながら報告です)

「泉南市子どもの権利に関する条例制定12年の今」 健康子ども部子ども政策課職員

2003年7月に制定された次世代育成支援対策推進法に基づく「次世代育成支援対策地域行動計画」策定にあたり、泉南市の今後の教育の在り方を議論する「教育問題審議会」の学識経験者に同じ人を選定。計画に「子どもの権利擁護の推進(子ども自身が生まれ育って良かったと思える泉南市をめざして子どもの自己尊重感をはぐくみ、子ども自身の参加、参画を推進することが大切)」を位置付け、教育問題、次世代育成支援対策地域行動計画、子どもの権利条例制定を並行して検討することになったとのこと。
2002年から様々な調査、学習会などの取り組みを経て、10年後の2012年10月条例制定されました。

泉南市子どもの権利に関する条例の特徴
①子どもの参加を大切にしていること⇒子どもたちが前文を起草・子ども会議の実施
②実践型条例⇒子育てと子育ちを社会で支えるしくみを記載
③検証と公表のシステムが決まっていること⇒どんな風に実践されているかを確かめるしくみ
条例制定後12年の今
子どもの施策の根底に条例がある
・継続されることで認知され充実した「子ども会議」
・担当者が変わるjことで理解者が増える
・子どもの権利条例制定委員会の検証が施策を後押しする
・市民モニター制度が市民の声を届ける
・各施設における「泉南市子どもの権利の日(11月20日)の取組の定着(保育園~おとなまで)
・様々な機会をとらえた子どもの権利についての研修会の実施
・子どもの権利を推進する庁内組織の充実
・相談・救済機関の設置に向けた検討
条例があることで市長が変わっても子どもの権利に基づく子ども施策の推進が約束されていることこそ、条例制定の意義であると再認識しました。また、具体的な施策である「せんなん子ども会議」に特に力をいれているとのこと。希望する子は誰でも参加できるしくみがさらに子どもたちの積極性を向上させていると感じました。
一方で、義務教育までの子どもたちには、配布物など学校教育を通してアプローチできますが、中学卒業後の子どもの意見をきく機会が減少するため若者支援に課題が残るとのこと。若者支援は練馬区でも課題ととらえています。

 

子どもの権利に関する積極的な教育を教育課程等に位置付けて実施する 現役の小学校長

日々進めている教育活動は、子どもの日々の言動や友だちとの関係から「どこに課題があるのか」「何を求めているのか」を観察し、「何でそんなことをしたの?」「どう思っているの?」と子どもの話を聞くことが指導の基本となっているそうです。
条例では、子どもがその思いや意見を社会の一員として自由に表明し社会に参加する権利である「子どもの意見表明と参加」を保証しており、具体的な施策として「せんなん子ども会議」を設置。参加対象を小学4年生から18歳として毎月1回の開催を継続しています。
タブレットを活用して24時間いつでも入力できる「校長先生『そうだん』があります」を開設。発信者の子どもには校長が直接「どのような解決策を望むのか」当事者の話を聞き一緒に対応を考える。子どもは必ずしも「完全な解決」を求めているわけではなく、思いを受け止められたと実感することで折り合いをつける力も持っているとのことです。
子どもの意見表明と参加の権利を意識した学校づくりを進める中で、高学年の子どもを中心に「自分たちでできることはないか」と考えて積極的に活動する子が増えてきたと感じている、子どもたち自身が権利の主体であることを自覚し、それが行動に現れているとのこと。
その一方で、教職員の子どもの権利に対する理解に難しさを感じていると。教職員にとって子どもは指導の対象である。意見表明と指導の狭間で教職員が「子どもがわがままを言っている」と思う場面もあるため、その見極めが難しい。子供の意見をしっかり聞く、子どもにとって最善は何かを考えて方向性を決める、できないことは説明して子どもの理解を得る、ということを教職員の共通理解としていきたいとのこと。
とはいえ、「泉南市子どもの権利の日」が制定されていることで必然的に教職員への周知、啓発になっていることを確認しました。

条例の運営状況と実施状況を市が検証し、市長に報告する条例委員の立場から

条例が施行されてからの初めの10年と課題と今後の課題は大きく変化している
①条例施行10年の歩み
子どもたちをはじめ、市民、市職員に子どもの権利や条例を「認知してもらう」ことが優先課題だった。市の実施事業として多くの権利学習の機会が設けられたことで、他の条例と比較しても認知度は格段に高い結果となっている。また、子育て支援に偏りがちになる「次世代育成支援対策地域計画」に子どもの権利の視点が取り入れられているのは、条例があるからこそと市民として誇りに思っているとのこと。
②条例施行10年目の課題 条例の形骸化
条例施行10年目の2022年、中学生が自死する事件が起こり、条例委員として市長や教育委員会などに「子どもの権利を尊重した対応」を求めてきたが、子どもの権利が理解されていないばかりか軽視されているのではないか、おとなが都合よく子どもの権利を解釈しているような状況が見えてきた。教育委員会や行政の中で、子どもの権利の共通理解が継承されていない。泉南市は条例の広がりの「質」を問われていると、市民委員の方は指摘しました。
10年間市民委員を務め子どもの権利と条例を見つめ続けてきた立場で、「泉南市子どもの権利に関する条例は、子どもを含む市民みんなが幸せになっていくための道しるべだと思えるようになった」という言葉が特に印象に残りました。

練馬区は「子どもの権利に関する条例を制定する考えはない」としていますが、条例制定を求める市民と条例制定の意義を再確認し、子どもにやさしいまち練馬の実現のために条例が必要であることを提案し続けなければ、と考えています。