チェルノブイリに学び、放射能から子どもを守る

「子どもたちの健康を守り続けるために ~チェルノブイリ30年、福島5年を経過して~」

豊島区学校医会では2015年から毎年、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏の講演会を開催しています。3回目の今年は、1月14日(土)、甲状腺外科医で現松本市長の菅谷(すげのや)昭氏とのトークセッションでした。

私は、信州大学病院の甲状腺外科医だった菅谷氏が、チェルノブイリの原発事故後に現地に赴き、子どもたちの甲状腺がんの手術にあたってきた記録を数年前に読み、大変感銘を受けていましたので、今回ぜひとも直接お話を伺いたいと楽しみにしていました。

子どもを守るのが大人の責任 小出裕章氏

日本では、一般人に対しては1年間に1ミリシーベルト以上の被曝をさせてはいけないという法律がある。福島の原発事故では、大気中だけで広島原爆168発分のセシウム137が放出され、広大な地域が本来なら「放射線管理区域」に指定しなければならないほど汚染された。放射線管理区域から、1㎡あたり4万ベクレル超えて放射能で汚れたものを管理区域外に持ち出してはならないという法律もある。しかし、政府は「原子力緊急事態宣言」を発令し、特措法をつくってそれらを反故にした。

国は、放射線業務従事者に対して許していた1年間に20ミリシーベルトという被曝限度を子どもを含めた住民に押し付け、住宅支援を打ち切り、汚染地への帰還を促している。帰還に不安を感じる人たち(特に母親)の声は「復興の妨げになる」とさえ言われ、被害者同士の分断を生んでいる。

米国科学アカデミーBEIR委員会の2005年の報告によると、「被曝のリスクは低線量に至るまで直線的に存在し続け、しきい値(これ以下なら安全という値)はない」としている。

日本人のおとなには原子力の暴走を許し、福島第1原発事故を引き起こした責任がある。自分が被曝しても、子どもたちを被曝から守るのが大人の責任だ。

 

チェルノブイリを教訓に子どもたちへの対策を 菅谷昭氏

チェルノブイリの事故のあと、現地で子どもの甲状腺がん患者が増えていると知り、専門医としていてもたってもいられず現地に向かった。当初は現地の医師をサポートするつもりだったが、技術が未熟であったり患者数が多かったこともあり、自身が執刀することになった。

事故現場近くにも行った際には放射線測定器の警報が鳴り続けていたが、においも息苦しくもなく、改めて放射能の恐ろしさを感じた。

チェルノブイリでは事故後5年目から子どもの甲状腺がんが増えたとのデータから、福島原発事故と甲状腺がんとの関連性を疑問視する意見もあるが、チェルノブイリの事故のあとどの段階から検査をおこなったのかということが明確ではない。小児甲状腺がんは、従来100万人に一人の割合で発症するものなので、やはり関連性は否定できない。福島県に甲状腺検査の縮小・打ち切りへの動きがあることは非常に問題である。

被曝による健康被害として、甲状腺がんに注目されがちだが、免疫力の低下や体力・集中力の低下など体全体の変化を心配するべきである。チェルノブイリ事故から30年経過しても、現地では健康な子どもたちの割合が他に比べて著しく低い状態が続いている。日本でも、継続的に検診をおこない、情報を公開して子どもたちの健康への対策をすることが重要である。

少子化が大きな問題と言われているが、今、目の前にいる子どもたちの健康をないがしろにしている限り、この国の未来はない。あらゆる手を尽くして子どもたちの健康を守るべきである。

 

巷では、「2020東京オリンピック・パラリンピック」がまるで錦の御旗のように感じられます。「福島は安全だ」と世界に向かって公言し誘致したからには、なんとしてでも「復興した」ことにしたいのでしょう。しかし、事態はむしろより深刻になっています。東京に暮らす私たちが関心を持ち、被災した方たち、特に子どもたちに最善を尽くすように国に求めることと、その声を広げていかなければなりません。

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講演中は撮影禁止だったので、始まる前に舞台のみ撮りました。

講演中は撮影禁止だったので、始まる前に舞台のみ撮りました。