「皮革と油脂」のまちをフィールドワーク

「1年に1日しか一般公開しない『皮革技術センター』を見学するんだけど、やないさんも行く?」
「あら、革製品がお安く買えるのかしら・・・」

不純な動機をきっかけに参加することになった、練馬人権センターの現地学習会。
10月20日(日)、抜けるような青空のもと、皮革と油脂のまち木下川(きねがわ)と浅草を巡り、同和問題や部落史、解放運動について学び、充実した1日となりました。ちなみに、皮革技術センターは、皮革に関する試験、研究、技術支援及び相談等をおこなう東京都が運営する施設で、革製品は販売していません。

日本の豚革の9割以上が木下川で鞣(なめ)される

東日本の皮革産業の拠点は浅草でしたが、1892(明治25)年の警視庁布告によって浅草の鞣し業者が市外に強制移転させられ、油脂業、骨粉や膠(にかわ)製造など皮革に関連する業種が木下川などに移ってきた歴史があります。現在、日本国内で鞣される豚革の9割以上が木下川で鞣されていて、品質の高さは世界から評価されています。

産業・教育資料室 きねがわ

現在、墨田区社会福祉会館内にある「産業・教育資料室 きねがわ」は、地元の木下川小学校が2003(平成15)年に閉校した翌年に校舎内に開設されました。
木下川小学校は、1937(昭和12)年に東京市向島木下川尋常小学校として開校。開校以来、地域の産業と深い関わりを持ち続け、1972(昭和47)年に東京都学力水準向上事業指定校となり、2003(平成15)年の閉校まで「人権尊重教育推進校」として東京の同和教育運動をリードしてきたとのことです。
産業・教育資料室は、「皮革と油脂」を中心とする産業に関連する資料や革加工に実際に使われてきた道具などと、木下川小学校の学習成果を収集・保存・整理・展示しています。
ディズニーの実写版「リトル・マーメイド」で主人公のアリエルが着用していた衣装は、革を加工したものだそうです。

きねがわスタンプラリーに参加

「きねがわスタンプラリー」は墨田区社会福祉会館、東京都立皮革技術センター、産業・教育資料室きねがわが主催し、地元の皮革や油脂産業界が協賛、町会も協力して開催され、今年で10回目になるそうです。
メイン会場の福祉会館では、革細工も体験。普段は一般公開していない東京都立 皮革技術センターでは、皮を鞣したり染色するなどの20を超える工程を見学することができました。

ワークショップで革細工を体験。革を水に浸して柔らかくし、型押ししたり、型に沿って折り曲げたり・・・。右側はダックスフントです

工場入り口 加工前の革がお出迎え

センター職員が丁寧に説明してくれます

回転させて革の線維をほぐして柔らかくしたり、革に自然なシワやシボを付けたりするための機械「空打ち太鼓」

浅草フィールドワーク

スタンプラリーを楽しんだ後は、午後の浅草フィールドワークに向けて台東区今戸の解放新聞社東京支局まで徒歩で移動。

講師は、東日本部落解放研究所事務局長の鳥山洋さん。
私は、2022年度の練馬区人権セミナーの講座で鳥山さんのお話を伺い、「士農工商」がフィクションであり近世日本の身分制度の実態を表していないこと、皮革や食肉産業が部落産業となった歴史的背景などを知り、今まで以上に部落差別問題に興味を持つようになりました。

東日本では農耕馬が死んだら所定の馬捨て場に捨てなければならず、また、解体処理する役割を担う人々が限定されていました。その役割を担い(特権を持ち)、牛馬の皮の生産を専業とした人々が「長吏(エタ)」と呼ばれ、のちの身分差別制度に繋がっていったということでした。

皮革は古代から武具や献上品として重宝され、現代においても革のバッグや靴は高級品をとされています。食肉加工は私たちの食生活に直結することなのに、死牛馬を「処理」(解体し再利用を可能に)する役割が動物の死に対する「ケガレ」を連想させ、差別意識につながっているのではないか。さらにいえば、時の為政者、支配者が、人や動物の死に関する人々の忌避感を巧みに利用して差別構造をつくりあげ、地域社会を管理しているのではないか、と考えるようになりました。

弾左衛門と皮革産業、小塚原刑場と「ターヘル・アナトミア」、白山神社と被差別部落、拾い集めた紙くずを水に浸して漉き返した浅草紙・・・などなど、これらは身分差別と関連していることもわかりました。
知らないことを歴史や研究から学び、誤った情報に基づくいわれなき差別を許さない社会の実現に取り組み続けたいと思います。

「縁結びの神社」として参拝客を集める今戸神社。白山神社を合祀したことが縁結びの由縁だが、合祀について差別があったことはには触れられていない