相談と住まいはセットじゃないと!~六甲ウイメンズハウス視察報告~

8月6日、長年、DV(家庭内暴力)被害者など女性支援に取り組んできた、NPO法人女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべの女性若者支援の取り組みと、同法人が運営する今年6月にオープンした「六甲ウイメンズハウス」を訪問し居住支援の取り組みを視察しました。

NPO法人女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ

同法人は、DV被害や社会的要因などで困難な状況にある女性と子どもを対象に、相談からシェルターでの緊急一時保護、その後の生活再建までの総合的支援や、その他啓発活動を行っています。

代表の正井禮子さんは、「男女共同参画社会の実現と女性の人権を守る」ことを理念に掲げ、「女性が本音で語り合える場を」と1992年に市民グループ「ウイメンズネット・こうべ」を設立。DV被害者からの相談を受けるなど支援してきました。
1995年の阪神淡路大震災で被災女性の電話相談を始め、女性だけで語り合える集会を開く中で、被災地の性暴力の実態を知ったそうです。
災害時の性暴力という問題を取り上げ、根絶を求めて抗議集会やデモなどに取り組んでいましたが、「性暴力はデマ」などとバッシングを受けるなど、世間の反応は厳しかった、また、住民の助け合いやボランティアの奮闘といった美談の陰で、性暴力という被災地の暗部には目を背けようとする空気を感じたとのこと。その後、しばらく沈黙していていましたが、東日本大震災直後から、正井さんへの協力を申し出る連絡があり、阪神淡路大震災の経験を無駄にせず今後の対策につなげていこうと国内外の専門家やNPO等の団体が協力して、本国内で初めて「災害時の女性や子どもに対する暴力」の実態調査が行われることになりました。
現在、災害時の性暴力について関心が高まり、災害発生時の避難所では注意喚起が行われるようになっています。しかし、非常時に弱い立場の人々に暴力が向けられ、怯えながら避難生活を強いられる実態はいまだに続いており、社会全体として取り組む課題であるとあらためて認識しました。

六甲ウイメンズハウス

困難を抱える女性たちが「ここにしか住めない」ではなく「ここに住みたい」と思えるすまいづくりを理念に、今年6月にコープこうべの女子寮を改修して、居室40室の「六甲ウイメンズハウス」を開設。
住まいの提供だけでなく、その後の心のケアや就労支援、女性や子どもの学習支援等も実施するとのこと。また、コープとの関係性の中で店舗での就労につなぐなど、具体的な就労支援につながるメリットもあります。

内閣府の2024年の調査によると、成人女性の4人に一人がDVを体験し、そのうち6人に一人が生命の危険を感じるほどの暴力を経験。しかし、DV被害女性の2割程度しか夫と別れていない実態があります。
主な理由は①経済的見通しが立たない②安全な住まいが確保できない③自分さえ我慢すれば家族を壊さないで済む、子どもから父親を奪わないで済む など。

DV被害者の経済的自立や精神の安定のためには、安心して生活の基盤を整える空間と時間が必要
(面前)DVを経験した子どもには、発達障害と似通った後遺症状が見られる場合があるとのこと。研究が進んでいる米国では、適切なケアで回復する(ケアされなければそのまま成長)ことがわかっており、そのためにも見極めが必要であるとのこと。また、DV被害の影響は、暴力やDVの連鎖が世代を超えて続くことが指摘されました。
安心して暮らせる住まいと相談はセットじゃないとダメ。安心した暮らしができてはじめて回復できる」という正井さんの言葉が強く印象に残りました。

六甲ウイメンズハウスの運営には、神戸市や兵庫県からの経済的支援はない。コープこうべと10年間の協定を結び、建物の安全性など見直していく計画になっています。
地元中学校への徒歩通学が困難。男子の場合、ほかの入居者への影響を懸念するなど、同居できる子どもは小学生まで。また、入居期間は原則3年間。この間に生活の基盤を整え、心身ともに回復し就労など経済的自立も目指し、一般の賃貸住宅などに転居することを視野に入れて継続して支援するしくみです。

オープンカフェで代表の正井さんからのお話を伺いました

事務所前の保育ルーム。子どもを遊ばせながら職員と話ができる空間です。

視察を終えて

DVや虐待を受けた女性たちの声を長年聞き続けてきたカウンセラーの信田さよ子さんの研究によると、戦争から帰還した兵士たちが抱えるトラウマが家庭内での暴力行為ににつながると指摘されています。米国ではベトナム戦争の帰還兵の後遺症が問題となり、80年にPTSD(心的外傷後ストレス障害)という診断名も誕生しています。私自身もベトナム戦争を体験した米兵たちの苦悩を取り上げた映画を複数観てきました。
戦後の日本でも同じ状況だったことは容易に想像できますが、周知されているとは感じられません。

DVの問題は「暴力の連鎖」と捉え、ジェンダーとともに反戦・平和の視点でも取り組むべき問題でもあると再認識した視察でした。

「住まいは人権」、ハウジングファーストの実現のために、生きづらさを抱える女性の居住支援として民間支援団と連携した取り組みを都や国に求めていきたいと思います。
また、暴力の影響から回復させる被害当事者や子どもを対象にした「リカバリーセンター」の設置も必要です。
女性支援新法が施行されましたが、六甲ウイメンズハウスには公的機関からの財政支援は今のところありません。法律を活かし、国の財政支援を求めます。